2025年6月19日、設計エンジニアリングの世界において、AI(人工知能)の導入が本格的に進んでいることが報じられました。特にCAD(Computer-Aided Design)の分野では、AIが設計工程を根本から変えようとしています。エンジニアの役割、スキル、ツールの使い方が今、大きく変わろうとしています。
- AIがCADの常識を覆す時代へ
- 生成系AIによる設計支援の進化
- スキャンから自動でCADファイルを生成
- エンジニアの役割とスキルの変化
- AIが生む新たな設計者層の登場
- AIが設計全体のライフサイクルに統合される未来
- 企業全体での設計データ活用とガバナンスの強化
- CAMとの連携による製造一体型設計
- クラウドと協調設計の時代
- CAD進化の歴史とAIによる変革の位置づけ
- まとめ:設計エンジニアの未来とAIの共進化
AIがCADの常識を覆す時代へ
AIは、従来のCAD業務における繰り返し作業を自動化し、膨大な設計パターンの提案やエラーの事前検出を可能にしています。
設計エンジニアはこれまで、試行錯誤を重ねながら最終的な製品形状を導き出してきました。多くの時間が、シミュレーションやCADファイルの作成、寸法の調整といった作業に費やされてきたのです。しかし、現在ではAIアシスタントがルーチン作業を担い、エンジニアは意思決定に集中できるようになりました。
Neural Conceptのトーマス・フォン・チャマー氏は、「AIは一瞬で数千の設計を生成し、すぐに安全性などの条件で評価してくれる」と語っています。
生成系AIによる設計支援の進化
LGM(Large Geometry Models)やLPM(Large Physics Models)といった生成系AIが、複雑な形状や物理解析を瞬時に提供する新時代を拓いています。
PhysicsXのアミール・ヴァジリ氏は「今後数年で、AIを中心とした設計・シミュレーションソリューションが当たり前になる」と述べています。設計者はAIと協力して設計を行い、膨大なバリエーションの中から最適な形状を選び出すことが可能になります。
さらに、マルチフィジックス対応のAIは、熱・構造・流体など複数の観点での評価を一度に行えるため、開発サイクルが飛躍的に短縮される見通しです。
スキャンから自動でCADファイルを生成
AIによって、3DスキャンデータをそのままCADファイルに変換する技術が登場し、ファイル作成の負担を大幅に軽減します。
Backflip社は、SolidWorks用のプラグインとして、スキャンデータをパラメトリックなCADモデルに自動変換するAIツールのα版を2025年3月に公開しました。これは、過去にCADファイルが存在しない部品や、他社設計品の再設計時に非常に有効です。
同社のグレッグ・マークCEOは、「現在、単純な部品の20%は完全に自動生成できており、40%は部分的に自動化されています」と述べています。今後は進化のスピードがさらに加速し、数週間ごとに精度が向上していく見込みです。
エンジニアの役割とスキルの変化
AIの導入により、エンジニアは「手を動かす人」から「判断する人」へと役割が変化しています。
これまでエンジニアは、数値計算・設計入力・解析といった細かな作業を自ら行ってきました。しかし、AIがその部分を代行することで、設計者は物理的理解や経営的判断に時間を割くことができます。
Von Tschammer氏は、「今後はコーディング能力よりも、グローバルな視点で設計最適化を行う能力が重視される」と述べています。
AIが生む新たな設計者層の登場
AIは、これまでCADの専門知識がなかった技術者や職人にも設計の扉を開いています。
Backflipのマーク氏は、「AutoCADや3D CADの登場により設計者人口が増えたように、AIは過去最大規模の新規設計者を生み出す」と述べています。たとえば、自動車整備士や工場の熟練技術者が、AI支援によって簡単に設計へ参入できる環境が整いつつあります。
今後は、設計のアイデアを頭の中から直接CADモデルに落とし込む時代へと移行するでしょう。
AIが設計全体のライフサイクルに統合される未来
今後数年で、AIは製品の構想段階から製造、実地使用まで一貫して統合されていくと予測されています。
PhysicsXのヴァジリ氏は、「設計から製造、現場での性能監視まで、AIモデルが継続的に学習し、製品の最適化を行うようになる」と述べています。たとえば、フィールドで取得されたセンサーデータを基に、AIが設計の問題点を抽出し、次の製品に反映させるといったサイクルが現実のものになります。
AIによる設計支援は一度きりの支援ではなく、製品の一生を通じて働き続ける「共創パートナー」として進化しつつあるのです。
企業全体での設計データ活用とガバナンスの強化
AI活用の鍵は「データ管理と再利用性」であり、設計者だけでなく企業全体の仕組みが問われます。
Neural ConceptのVon Tschammer氏は、「設計サイクルの次回に活かすには、AIが使うデータを体系的に収集・蓄積する必要がある」と語ります。これは単にエンジニアの仕事だけで完結する問題ではなく、マネジメントやIT部門との連携が欠かせません。
製品データ管理(PDM)やライフサイクル管理(PLM)とAIの連携は、これからの企業競争力に直結する分野です。
CAMとの連携による製造一体型設計
CADとCAM(コンピュータ支援製造)の統合が進み、設計段階から製造性を加味した構想が可能になっています。
従来、設計後に製造可能性を検証するという順序が一般的でしたが、今ではAIが設計時点で「この形状は加工しづらい」「材料の無駄が多い」といった助言を与えることができます。これにより、試作の手間や部品変更のリスクを大幅に減らせます。
加工制約をリアルタイムで考慮しながら設計できる環境は、機械設計における革命的な変化です。
クラウドと協調設計の時代
クラウドベースのCADは、複数人による同時設計や遠隔地との共同作業を可能にし、AIとの相性も抜群です。
クラウドCADでは、インターネット環境があればどこでも設計が可能であり、変更履歴の管理やバージョンの整合性も自動化されています。そこにAIが加わることで、設計案の比較や意思決定の補助などがリアルタイムで行えるようになりました。
また、他部門(製造・購買・マーケティング)との共同作業も加速しており、製品開発全体のスピードと精度が向上しています。
CAD進化の歴史とAIによる変革の位置づけ
2Dから3D、パラメトリック設計、統合解析、そしてAI統合へと、CADの進化は連続的に進んできました。
1980年代の2次元設計から、1990年代以降の3Dモデリングとパラメトリック設計の普及、2000年代の統合解析(FEA/CFD)機能の追加。そして、2010年代からはCAM連携とクラウド化が進行してきました。
2020年代は「AIとの融合」がCADの最大の変革と位置づけられます。AIは単なる機能の追加ではなく、エンジニアの行動様式そのものを変えるパラダイムシフトとなっています。
まとめ:設計エンジニアの未来とAIの共進化
AIは設計エンジニアを置き換えるのではなく、能力を最大化し、創造性を解き放つ存在です。
単調な作業を自動化し、複雑な意思決定をサポートすることで、エンジニアはより高度な課題に集中できるようになります。加えて、非専門家への設計参加も促進され、新しい才能の発掘にもつながっています。
この流れはもはや一過性のブームではなく、設計の本質を見直す機会です。エンジニアリングの未来は、AIとともに形作られていくのです。